主人公新平さん89才、妻の栄子さん88才、軽度の認知症疑い。長男と三男は中年を過ぎても独身で同居中。独立している次男は長女を自認している。
言わばいろいろ抱えている家族なのだが、新平さんはただ淡々と人生の散歩を楽しんでいるように見える。
哀しいんだか、可笑しいんだか、よくわからないまま読了。
不思議にやさしい余韻が残る。
永井紗耶子、宮部みゆきさん以外は初めての作家さん。どの短編もテーマ「おつとめ」に繋がっている。
『ひのうえまのおんな』『鬼は外』は再読だが何度読んでも新鮮。さすがだ。
『道中記詐欺にご用心』は現代語を交えて読みやすかった。
『色男』は主人公のその後が知りたいと思った。
「暖か湯気と、食欲をそそる匂いに包まれた屋台は、冬の夜の海に輝く灯台のようだ。集まった客たちは、船頭ひとりの小さな船である。舳先を寄せ合っていっときの世間の荒波を逃れ、暖をとる」
「思い通りにならないと、しゃにむに口をとがらせ文句を言い、めちゃくちゃな理屈をつけてでも我を張らずにいられない、お金の顔が心に浮かぶ」
~『鬼は外』(著・宮部みゆき)より抜粋~
学童クラブとそこに通う六年生、四人の子供たち。主人公の良祐を中心にホームレス、家庭、働き方、死生観、初恋とテーマは広がっていく。
児童小説だが、伝えにくいことでも、あえてフィルターをかけていないところが新しい。挿絵のイラストが秀逸。